「あたりにはサンダル,眼鏡,茶碗,箸などがころがり,あぶらっぽいような,淫らなような匂いがねっとりとよどんでいた。」(開高健『夏の闇』)。そんな,記憶に焼き付く匂いが,ワイヤードから漂ってくる。
米国ディジセンツ社は13日,インターネットに匂いを持ち込むソフトとプラグイン機器の計画を発表した。それによるとアイスメルという匂いのオイルが入っている機器をパソコンに繋ぎ,インターネット上から匂いのプロフィールを受け取り,匂いを出す。これは,香水などの商取引,ジェット燃料の匂いのするゲーム,たき火の匂いのする映画などに利用できるという。
ワイヤード上で,五感を感じれらる時も,来るだろう。今現在は,視覚と聴覚は十分として,味覚・臭覚・触覚はまだない。あまり普及するとは思えないディジセンツ社のシステムも,将来的なバーチャルリアリティースペースをつくるための一助とはなるかもしれない。そう,ワイヤード上で,五感のすべてを感じることができる,そんな空間。構築されたら,リアルとワイヤードの境は,本当になくなってしまう。
なにげに触覚は,いちばん早く一般化するかも。アダルトな利用法で,爆発的に普及する可能性あり(^^ゞ。味覚も需要は大きいだろう。コンニャクみたいなものに味のプロフィールを付着させ,食べ物の味を伝達することは不可能ではなさそうだ。だが臭覚はなぁ…。甘い苦いしょっぱいと味を表現する言葉は多いが,匂いを表現する言葉は,日本語に限らず極端に少ない。それだけプロフィールの作成が難しいということ。だが,記事中にあるように,臭覚は強く記憶を残す。焼け焦げた匂いで火事を思い出したり,親しい人を匂いで思い出すこともある,それも他の感覚よりも鮮明に…。ワイヤードから漂ってくる匂いが,大事な記憶と結びつく。人はワイヤードの匂いに泣くことも,笑うことも,ある。
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